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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)288号 判決

控訴人 源豊洋行こと劉清官

右訴訟代理人弁護士 草信英明

被控訴人 趙友良

参加人 大畠千鶴子

右被控訴人、参加人両名訴訟代理人弁護士 下山量平

下山昊

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

参加人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一審、及び第二審中控訴被控訴人間に生じた分は被控訴人の負担とし、その余は参加人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求め、参加代理人は、「控訴人は参加人に対し、金九三一、〇〇〇円及びこれに対する昭和三六年一月二六日以降完済にいたるまで年五分の金員の支払をせよ。訴訟費用は控訴人の負担とする。」との判決、ならびに仮執行の宣言を求めた。

控訴、被控訴人及び参加人の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において、

一、被控訴人は外国為替及び外国貿易管理法に所謂非居住者、控訴人は居住者で、控訴人の被控訴人に対する支払は同法二七条によつて禁止されているから、その支払は許されない。

二、被控訴人から参加人に対する本件債権を譲渡する旨の通知が昭和三七年六月二八日控訴人に到達したことは認めるが、右債権譲渡のあつたことは否認する。

三、仮に右債権譲渡があつたとしても、被控訴人は昭和三四年四月下旬スイス製インターナシヨナル密輸時計三〇個を控訴人の斡旋によつて一個四万円で訴外林官永に売却したが、同年五月訴外人が代金の一部を支払つただけで急死したので、被控訴人は控訴人を脅迫して右残代金の支払を要求し、控訴人をして被控訴人主張の約束手形及び小切手(合計額面金額九六万円)を振出さしめ、後程この手形及び小切手金債務をもつて被控訴人主張の準消費貸借としたもので、この準消費貸借は、密輸時計に相当する価額の返還を請求することを目的とするものであるところ、密輸時計の売買契約は民法九〇条によつて無効であるから、被控訴人に対する右準消費貸借もまた無効である。

四、仮に右が認められないとしても、控訴人の被控訴人に対する本件債務の支払は、前記一において述べたとおり禁止されているため、外国為替及び外国貿易管理法に所謂居住者たる参加人に譲渡して請求させているのであるから、その支払は非居住者たる被控訴人に対する支払と同視すべきであり、同法二七条によつてその支払は禁止されている。仮に同視すべきでないとしても、譲渡された債権は、同一性を保持するから、同様の理由により、その支払は禁止されている。

五、仮に右が認められないとしても、被控訴人の参加人に対する債権譲渡は、訴訟行為をなさしめることを目的としてなしたものであるから、信託法一一条に違反し、無効であると述べ、

被控訴代理人において、控訴人の主張に対し、一、の法律上の主張は争うと述べ、

参加代理人において、被控訴人は本件債権を昭和三七年六月二七日参加人に譲渡し、その譲渡通知は翌日控訴人に到達した。従つて、被控訴人の控訴人に対して請求していた債権は参加人に帰属したから、参加人は控訴人に対して、被控訴人が控訴人に請求したとおりの債権額、すなわち金九三一、〇〇〇円及びこれに対する昭和三六年一月二六日以降完済にいたるまで民法所定年五分の遅延損害金の支払を求めると述べ、控訴人の前記主張に対し、三、五の事実は否認し、四の法律上の主張は争う。外国為替管理令一三条一項は、外国為替及び外国貿易管理法三〇条三号を除外しているから、控訴人の参加人に対する本件債務の支払は禁止されていないと述べ、

立証≪省略≫

理由

一、参加人のなした本件参加が適法であるかどうかについて判断する。

控訴被控訴人間には準消費貸借契約が成立し、この契約に基づいて被控訴人は控訴人に対し、残金の請求をしているものであり、参加人は被控訴人からこの残金の請求権を譲受けたものとして、本件において、控訴人に対して該金員の支払を請求していることは、後記認定のとおりであるから、参加人の本件参加は適法である。

二、被控訴人が控訴人に対して有していた金九六万円の手形金債権につき、昭和三五年三月一二日該手形債権を元金九六万円の貸金とし、控訴人は被控訴人に対し、この金員を同年同月末日を初回とし、爾後完済にいたるまで、毎月末金一五、〇〇〇円宛支払う、控訴人において右分割金の支払を二回以上怠つたときには期限の利益を失なうとの準消費貸借債務に更改する合意が控訴被控訴人間に成立し、控訴人がこの合意に基づき昭和三五年四月三〇日金九、〇〇〇円、同年五月一〇日、翌三六年一月一三日各金一〇、〇〇〇円の支払をしたことは当事者間に争がない。

三、≪証拠省略≫控訴本人尋問の結果によれば、被控訴人は香港からスイス製インターナシヨナル腕時計三〇個を密輸し、その売買の仲介を控訴人に頼んだので、控訴人は林官永を紹介したところ、同人は密輸時計の代金の決済がつかないうちに死亡したため、被控訴人はその責任を控訴人に問い、脅迫するにいたつたので、控訴人はやむなく林官永の被控訴人に対する右代金債務の支払のため約束手形九通小切手一通合計額面金額九六万円(甲第四号証の一ないし一〇)を振出したが、その後前記のとおり、この手形小切手金額九六万円を貸金とする準消費貸借に更改したものであることを認めることができる。≪証拠の認否省略≫

そうすれば、被控訴人が控訴人に対して請求する本件準消費貸借に基づく債権は、もともと林官永の支払うべき密輸時計の代金債権の支払のため振出された前記約束手形小切手金九六万円の更改されたものであるが、密輸時計の売買は国家の政策的な規定に反し、ひいては公の秩序に違反するものであるから、その売買契約は民法九〇条によつて無効である。従つて、販売者はその代金を法律上請求することができないものである。そうすれば、その他の点について判断するまでもなく、被控訴人の控訴人に対する右準消費貸借に基づく金九六万円の債権も法律上請求できないものである。しかして、本件において請求する参加人の債権は、この被控訴人の準消費貸借債権を譲受けたものであることは、参加人の主張自体から明らかであるから、参加人が被控訴人の準消費貸借債権を適法に譲受けたかどうかについて判断するまでもなく、その債権もまた法律上請求できないものとして棄却を免れない。そうすれば、被控訴人及び参加人の請求は、いずれも失当であるから、これを棄却すべきで、これと趣旨を異にする原判決は不当であるから、これを取消すべく民事訴訟法三八六条、九六条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安部覚 裁判官 山田鷹夫 鈴木重信)

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